未知なる時代を切り拓く力

校長 木村 健太 先生

千代田中学校・高等学校

「研究」「開発」の2コース制で未来をつくる
〝学ぶようにあそび、あそぶように学ぶ〟生徒

各分野から注目を集めている千代田中学校・高等学校は、2025年4月、千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院が校名を変更し、新たなスタートを切った学校だ。校名変更と同時に、中学に「研究」と「開発」の2コースを新設。さまざまな分野のフロントランナーと共に、「学ぶようにあそび、あそぶように学ぶ」ための本格的なプロジェクトを進行している。一人ひとりの得意を自己実現につなげる仕掛けについて、校長の木村健太先生に聞いた。

「楽しい」を大切に 生徒たちが未来をつくる

貴校の沿革を教えてください。

木村 本校は、創立より137年の歴史を有し、浄土真宗本願寺派の宗門校として国際理解に力を入れてきました。今年度からは、国際を超えた地球レベルで世界の幸せを追求するために、校名を「千代田中学校・高等学校」にあらため、変化し続けていく学校として新たなスタートを切りました。

木村先生は、前任の広尾学園中学校・高等学校で新コースの立ち上げにかかわり、
産業界や学術界の会議に名を連ねるなど、多方面から教育改革に取り組んでいらっしゃいます。
今の日本の教育にどのような課題を感じていらっしゃいますか。

木村 世界では教育のゴールを、個人と社会全体の「Well-being」を追求することだと定めています。日本でも、生徒〝の〟未来を考えることに加えて、生徒〝が〟これからの未来をつくるための環境を整えていく必要があります。また、大学受験がゴールだと生徒に勘違いさせてきたことも問題です。特に、受験を突破するだけのやらされ感の強い修行のようなお勉強から脱却し、楽しさを起点とした学びに転換していく必要があります。

 たとえば私も、生徒との面談時に「得意科目はこれ以上勉強しなくていいから、苦手科目の克服を優先しよう」と指導することがありました。しかし、それでは常に苦手科目の勉強を強いることになってしまいます。まずは「好き」や「得意」を掘り下げることで学ぶ楽しさや、やりがい、学び方を学び、そこから他教科への興味にもつなげていく。これが、本校がめざす考え方です。

授業はグループワークが多く、
チームで取り組む機会が豊富にある

そのためにどのような取り組みが行われているのでしょうか。

木村 自分もみんなも幸せな未来をつくるためにも、学ぶ楽しさを知るためにも、まず学校が生徒にとって、楽しい場所でなくてはなりません。そこで、「学ぶようにあそび、あそぶように学ぶ」というスローガンを掲げ、〝Fun〟な楽しさから〝Interesting〟に発展させ、最終的には〝Exciting〟な学びに接続することをめざしています。

 その具体例が、2025年度から設置した2つのコースです。研究コースは、新たな価値を模索しながら「0から1」を生み出すことを、開発コースは、今ある技術や知識を組み合わせて「1から10」に発展させることを目的としたコースです。生徒たちは、各分野のフロントランナーの講師が率いるラボやゼミ、プロジェクトと呼ばれる研究活動に所属し、論文投稿や学会発表をめざす「アカデミック」、起業を含めてビジネスとして展開する「アントレプレナーシップ」、エコシステムの構築や政策提言につなげる「ソーシャルイノベーション」といった出口を目標としながら、学術界や社会の発展に貢献していきます。

熱意のある講師陣を招聘し
多様なゼミを展開

実験室には、細胞培養や遺伝子操作も可能な実験機器を備える

まず、研究コースの活動について教えてください。

木村 現在、研究コースでは、幹細胞を用いた再生医療の研究から経営戦略まで、バラエティーに富んだ12のラボを展開しています。たとえば「メディアラボ」では、旅サラダやプリキュアのプロデューサー経験のある安井一成さんと生徒が、次世代のメディアの在り方について考えています。また、XperiaやBluetoothの生みの親である坂口立考さんが率いる「共創AI・英語サイエンスラボ」では、AIの力で未来予測をしながら、自分の英語学習を修正していくという仕組みづくりと並行しながら、AIが人間の気分の波を察知して、それに合わせた学習提案を行うという新しい技術研究にも着手しています。

「開発コース」はいかがですか。

木村 アイデアの社会実装を念頭に置き、「アントレプレナー」「映像制作」「農業」「アプリ開発」など、多岐にわたるジャンルのプロジェクトを展開しています。

研究コースと同様、第一線で活躍する専門家の方々と共にプロジェクトを進めていくのが特徴です。

この2コースにおいて、最もこだわっているのはどのような点ですか。

木村 中高生と本気で未来を考えたいという熱意ある講師陣を招聘している点です。生徒に教えるというよりも生徒の感性や発想から学びたいというメンバーだからこそ、生徒たちは当事者意識をもって主体的に研究を進めているのです。

生徒の興味を教科学習につなげ
学びのストーリーをつくる

研究活動は日々の学習や大学受験に繋がりますか?

木村 生徒は関心のある分野を掘り下げていく過程で、学ぶ楽しさを実感しますし、学び方も学びます。さらにその興味は他分野へ拡張していきます。たとえば、iPS細胞に興味を持った生徒が「山中伸弥教授の英語論文を読んでみたい」となれば、英語の授業に前向きに参加するようになります。細胞培養を始めるときには、培養液の調整のために「mol計算ができるようになりたい」と、化学の勉強に主体的に取り組むようになります。生徒が示した興味を、いかにスムーズに教科学習に接続させるかは、私たち教員の腕の見せどころです。一人ひとりの学びのストーリーをともにつくることで、苦手に感じていた分野も、やりたいことに変わっていくのです。

これらの取り組みは、生徒の学び方や進路選択にどのような変化をもたらすとお考えですか。

木村 生徒たちには、こうした活動を通して、従来の教育にありがちだった「理不尽さに耐える力」ではなく、「どうすればおもしろく取り組めるか」を考えられる人になってほしいと願っています。また、専門を極めることの大切さと同時に、複数の専攻を学んでもいいし、複数の組織に所属してもいいというパラレルキャリアの良さも知ってほしいのです。時代の変化に合わせて柔軟に学び続け、次の時代をつくり出す。生徒たちが自分もみんなも幸せになる未来をたのしみながらつくっていく。そんな未来にワクワクしています。

最後に受験生に向けてメッセージをお願いします。

木村 私たちが募集しているのは、受験生というよりもともに未来をつくる「仲間」です。あなたらしさで世界に挑戦できる千代田中学校・高等学校で、ともに未来をつくっていきましょう。

ラボ紹介①

「共創AI・英語サイエンスラボ」

ソニーエリクソンでグローバル開発を指揮し世界市場を牽引した坂口立考さんが、シリコンバレーで12年研究開発に取り組んできた共創AI「エンパシーム」(気づかせて自助力を育むしくみ)を活用。英語フレーズの発話練習で声と認知を視覚化し、上達過程を探究・実証。リベラルアーツとサイエンスを融合した前例のない試み。

ラボ紹介②

「AsoManaラボ」

知識集団「QuizKnock」を運営し、ネットメディアだけでなく書籍やイベントの企画を行う、㈱baton代表の衣川洋佑さんによるプロジェクト。「楽しんで学ぶ」という価値観を追求するため、問いの立て方や、研究のための知的な地盤づくり、「どうしたら学びをおもしろくできるのか」に対する答えの具現化をめざす。

ラボ紹介③

「メディアラボ」

報道やアニメ番組のプロデューサー経験を持つ、朝日放送テレビ㈱事業局局長補佐の安井一成さんが講師を担当。企画・脚本・撮影・編集まで本格的に学びつつ、ドラマ仕立ての学校紹介動画を製作中。人の心を動かす表現を追求する。

千代田中学校・高等学校 お問い合わせ先

※本記事は『日経ビジネス 教育特集号 AUTUMN.2025〈東京ストーリー〉(日経BP社)』に掲載されたものです。

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