女子伝統校の魅力と展望

鷗友学園女子中学高等学校

教科書の枠を超えた世界に
触れられる特別な講座
学問的視野を広げる

毎年、国公立大学や難関私立大学へ多くの卒業生を送り出している鷗友学園女子中学高等学校。高2から理系・文系・芸術系に分かれ、進路に向けた学習を深めて行く同校では、文理選択を控える高校1年生を中心に、高校生全体を対象とした「教科横断Day」を2023年より開催している。さまざまな専門領域を持つ教員たちが協働し、通常の授業とは異なる視点から展開する20講座を通して、生徒の学問的視野を広げるこの取り組み。当日の様子をレポートする。

国語の大野先生と英語の眞田先生による「「春はあけぼの」ってどう訳す?~翻訳を通して「言語」を科学する~」の授業の様子

創立当初から行う「合科」の授業をさらに発展させた講座

高2での文理選択を控える高1は必修となっている「教科横断Day」。講座内容は毎年変わるため、高2の参加も多い

 創立当初から、さまざまな教科を結び付けた授業を展開してきた鷗友学園。中でも、同校の代表的な教科「園芸」は、植物を育てる園芸だけでなく、植物の構造を学ぶ理科、植物を食する家庭科を結び付ける「合科」として知られている。

 毎年7月に開催している「教科横断Day」は、教員が日頃教鞭を執っている教科のみならず、興味・関心を抱いているテーマを持ち寄り、学問を自由な切り口で横断する講座を共同で企画する。普段の教科学習とは異なる視点からテーマ学習を⾏い、⾼校1年⽣が、⽂系・理系にとらわれないような、幅広い学問的視野を持つきっかけを提供している。

 ホールにて行われた開会式では、この取り組みの発案者でもある社会の吉田裕幸先生から、「○○を科学する」という今年のテーマが発表された。吉田先生は「⾝の回りで起きている出来事に関⼼を持ち、視野を広げ、自分事として考えるきっかけになるとうれしいです」と話した。

 そして、1時間目と2時間目で行われる、合計20の講座名と担当する先生の名前が発表されると、生徒たちはこれから始まる講座への期待に胸を膨らませていた。各自、参加したい講座が開かれる教室へ速やかに移動すると、1時間目の講座がスタートした。

話題のコメ問題から趣味まで
多彩な内容が知的好奇心を満たす

 1時間目に行われたのは、全部で10の講座。「『扇の的』を射るのはどれだけ難しいか~現代の射手が過去の弓の名手那須与一を語る~」や「Guidebook~『そこ!?』ってなるJAPAN~」など、タイトルだけでも知的好奇心をくすぐられるような講座が用意されている。

 2025年春先から問題となっていた日本のコメ事情に迫る「食べるは守れる?~コメから考える食糧安全保障~」では、理科・社会・園芸の各教科を担当する教員が集結。社会の斎藤先生が、「国内生産」「備蓄」「輸入」を食糧安全保障の三つの柱として紹介したのち、園芸の金井先生が、コメの栽培に最も大切なものや、日照時間の少ない新潟県がコメどころになった理由などについて、生徒たちに解説した。

 一方、国語の大野先生と英語の眞田先生による「『春はあけぼの』ってどう訳す?~翻訳を通して『言語』を科学する~」では、俳句や古文の英訳に挑戦。松尾芭蕉の「古池や 蛙飛び込む 水の音」という句を例に挙げ、「水の音」にも「sound of water」「splash」など、多彩な訳し方があることを生徒たちに紹介した。

 社会の福井先生と美術の出口先生は、「senseを科学する~『センスが良い』ってどんなこと? センスって特殊能力ではない! お客に刺さる商品開発を考えよう!~」と題した講座を展開。見慣れたキャラクターでも、異なるカラーリングを施すことによって、受ける印象が大きく左右されることなどを、生徒たちは楽しみながら確認していた。

 この講座では、福笑いを使ったグループワークも行われた。5~6人のグループで、配布された○・△・□の図形を輪郭にして表情パーツを配置し、「こわい」と「かわいい」、それぞれの言葉をイメージするキャラクターを制作するというお題が与えられた。

生徒たちは楽しそうに話し合いながら、ビジュアルイメージの重要性や、より洗練されたセンスを身に付けるためのノウハウを習得していた。

 また、社会の前澤先生と家庭科の加藤先生による「風水って意味あるの?」では、前澤先生が、都の鬼門(北東)に比叡山延暦寺や東叡山寛永寺が、裏鬼門(南西)に石清水八幡宮や増上寺が位置しているといった、日本史に基づいた見解からの分析を行った。加藤先生は、各方角に合った色をインテリアに取り入れると運気が向上するという、現代的な風水に対して、配色を学ぶことが環境を整え、他者へのアプローチにも効果的なのでは、という見解を示していた。

 さらに、数学の新野先生と理科の篠本先生は、大好きな野鳥への愛を発揮して、「野鳥の保護、環境問題~私たちができること~」と題した講座で、野鳥観察を通じて環境保全を考えるプログラムを展開した。教員にとっても、同僚と協働し、絆を深め合える機会となっているそうだ。

社会の前澤先生と家庭科の加藤先生による「風水って意味あるの?」は、前澤先生による解説に生徒たちが真剣な表情で耳を傾けていた

振り返りを通じて深まる学び
教員も楽しみなイベント

 2時間目には、1時間目とは異なる内容の講座を開催。FORBES JAPAN 30 UNDER 30 2023を受賞した、卒業生の福田和子さんと社会の村田先生とのコラボレーション企画となる「奇跡のおこしかた~ルワンダの奇跡から~」などに、生徒たちが参加した。2時間の授業の後に、生徒たちは再度ホールに集合し、振り返りと共有の時間が設けられた。

 「食べるは守れる?~コメから考える食糧安全保障~」に参加した生徒からは「思っていたよりもお米がいろいろな面で大変な状況にあるということが分かり、他人事ではいけないと思った」と、自分事としてとらえる声や、「進路を考えると一番興味のある内容でした。今回の授業で、食料自給率の問題はこんなにも複雑にいろいろな事情が絡みあっているのだと知って、さらに興味が深まりました」と、将来の学びにつながったとの感想も聞かれた。

社会の福井先生と美術の出口先生による講座では、グループワークで福笑いに挑戦。生徒たちが思う「かわいい」に共通点があることに注目

 また、グループワークを取り入れた「senseを科学する~『センスが良い』ってどんなこと? センスって特殊能力ではない! お客に刺さる商品開発を考えよう!~」では、「グループワークで行った福笑いのように表情を作るのが、みんな違っておもしろかったです。選んだ輪郭が『こわい』の時は全員三角、『かわいい』の時は全員丸を選んだことから、センスを科学的にとらえられるのが分かりました」と、参加者全体の傾向の分析を行うものがあった。また、「センスというのは先天性のものだけでなく、後天性のものもあり、物事の対処の方法を知るかどうかが重要だと知ったので、どんどん知見を広げていきたいなと思いました」といった前向きな声も見られた。

 新野先生と篠本先生の生物愛が生徒に届いた「野鳥の保護、環境問題~私たちができること~」に参加した生徒からは、「好きな生物にまつわる思い出を語る先生方の目がキラキラしていたのが印象的だった」「先生方が自分の興味のある事柄について、とても楽しそうに話している姿を見て、将来の仕事を決める時に自分の好きなことを利用できれば良いなと思いました。

お二方とも実体験をもとにいろいろなことを教えてくださり、自分の記憶にも残り、とても楽しく受講できました」という感想が聞かれた。教員の生き生きとした姿に心を動かされたようだ。

 入試広報部長の若井由佳先生は、「エントリーする段階では、誰と一緒に講座を作り上げるかはわからない状態です。普段はあまり顔を合わせない教員同士がチームとなることもあるので、生徒だけでなく、教員にとっても楽しみなイベントとなっています」と話す。

 校長の柏いずみ先生も「今後も続けていきたいですね」と語る「教科横断Day」。鷗友学園の教育を象徴する行事として、ますますの発展が期待される。

安田教育研究所・安田理先生の
女子伝統校
ここ魅力

鷗友をミッションスクールとして意識している人は少ないだろう。キリスト教学校教育同盟に加入こそしていないが、中学では「聖書」の授業が週1回行われている。30年間にわたって理事長・校長を務めた石川志づが熱心なクリスチャンであったことによる。入試の難しさ、大学合格実績の高さといった進学校としての面が注目されているが、キリスト教精神を土台にした全人教育と両立させていることこそ鷗友の魅力と言っていいだろう。

安田教育研究所
代表 安田 理 氏

鷗友学園女子中学高等学校 お問い合わせ先

※本記事は『日経ビジネス 教育特集号 AUTUMN.2025〈東京ストーリー〉(日経BP社)』に掲載されたものです。

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