女子伝統校の魅力展望

東京女学館中学校・高等学校

国際社会で通用する
女子リーダーシップ教育
先進校に聞く

女性リーダーシップ教育に長い伝統を持つ東京女学館中学校・高等学校。帰国子女と国内生が同じクラスで学ぶ、当時としては画期的な試みとして始まった国際学級も今年で22年目を迎え、巣立った生徒は国際社会の一線で活躍するようになっている。2026年度から2クラス体制に強化される国際学級の歩みと成果、今後の目標などについて、国際学級主任の青木理恵先生、国際副教頭のクリスタル・ブルネリ先生に話を聞いた。

国際学級主任
青木 理恵 先生

国際副教頭
クリスタル・ブルネリ 先生

目的は英語力強化ではなく
多様な生徒が学び合うこと

20年以上前に国際学級を開設したわけですが、改めて設置の経緯についてお聞かせいただけますか。

国際学級は高校2年次にクラス全員で模擬国連に取り組む。アメリカの姉妹校であるDana Hall Schoolは模擬国連の強豪校であり、同校の卒業生が指導に当たる

ブルネリ 私たちネイティブ教員は国際学級開設に合わせて招かれているため、構想段階の議論には参加していません。ただ、「高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成」という教育目標を明確に定め、アメリカ文化研修や東南アジア文化研修、姉妹校交流などを始めた時期と重なっており、インクルーシブリーダーシップ教育も始めた頃でした。そのため、国際学級は、女学館のこうした新しい教育を一足先に実現するためのクラスとして設定されたのだと認識しています。

青木 今年で創立137年目を迎えますが、本校は設立当初から教育理念も校名もまったく変わっていません。100年以上の歴史を持つ学校はたくさんありますが、校名と教育の方向性を一度も変えていない学校は、あまりないと思います。明治という激動の時代に創設されたこともあり、創設時から海外の人と対等に渡り合える女性のリーダーを育成するという理念が掲げられていました。その理念を具現化するものとして、2004年に国際学級が立ち上がりました。

どのようなコンセプトで国際学級を運営されてきたのでしょうか。

ブルネリ 私たちは、帰国生と国内生が共に学び合える環境を実現したいと考えました。そもそも英語力のために国際学級を導入したわけではありません。帰国生の英語力維持や強化のためなら、取り出し授業を行えばよいわけですから。国際学級と取り出し授業はまったく別ものです。日本のことをまったく知らず英語しか話せない帰国生、英語圏以外で育ち英語ゼロの帰国生、ずっと日本で育ってきた国内生をあえてミックスすることによって、小さな多文化コミュニティを形成し、互いに影響を与えながら成長できるクラスにしようとしたわけです。

青木 多様なバックグラウンドを尊重し、認め合い、学び合うということをとても大事にしています。だからこそ国際学級では英語力を問わない入試を行っているわけです。そのため、英語力に関しては、上とか下といった言い方は決してしません。英語が話せないことは悪いことではなく、それまでの言語経験の違いでしかないということを、とくに中1の段階では繰り返し伝えて意識化させています。英語は入学後に鍛えていくので、高3では海外大学に直接入学できるレベルにまで伸びていきます。

昨年、チェコのGymnazium Jiriho z Podebrad高校から初めて訪問団が来校。今年も来校して音楽系のクラブでの交流を予定

「Language Arts」で北米型の授業を実践

国際学級ならではの学びについてご紹介ください。

ブルネリ 帰国生向けのプログラムでは、教員が全員ネイティブであることを謳っているものもあります。しかし、女学館の国際学級は、ネイティブ教員と日本人教員が完全に対等な立場で教えています。これは大きな特長だと思います。日本で英語を学んだ教員、英語圏で育ち外国語として日本語を学んだ教員が、それぞれの視点から教えることが大切だと考えているからです。英語が話せる人は世界にたくさんいますが、英語ができる日本人なら日本の文化についてもきちんと知っておくべきだと思います。現在、全クラスで実施している茶道・華道体験など日本文化を理解するプログラムも、もともとは国際学級が導入したものです。

国際学級の英語教育はどのような形で実施しているのでしょうか。

青木 中1の英語は週に8時間授業があり、6時間は「Language Arts」、2時間は文法の授業です。「Language Arts」は北米の現地校で標準的に行われている「国語」の授業とほぼ同じ形式です。英語力のレベルによって中学校はクラスを3グループ、高校では2グルーブに分割し、使用する教材も多少は違いますが、授業の狙いや目的は同じです。少人数制の生徒主体の授業で、リーディング教材をベースに、ディスカッションやグループワーク、登場人物の掘り下げ、扱ったシーンのドラマ化といった多彩な言語活動を通して、英語の4技能を鍛えつつ、思考力や表現力を高めていく授業です。もちろんオールイングリッシュで進めています。

英語の授業以外は、国際学級以外のクラスと同じなのですか。

青木 美術の授業に関しては、国際学級は英語で教えていますが、それ以外の科目は、女学館の一般のクラスとまったく同じ教材、進度で進めています。なお、海外研修に関しては、国際学級ならではの高度なプログラムを用意しており、国際社会で他者と協働していくインクルーシブリーダーシップを高めるのに役立つような機会を豊富に提供しています。

韓国海成高校からの訪問団が本校に来校した時の様子。20年近くお互いの学校を訪問し、両国の歴史や文化を理解し合う交流を続けている

ケンブリッジ国際認定を取得
次年度から2クラス体制へ

国際学級があることで、
校内への好影響のようなものはありますか。

ブルネリ 帰国生は質問したり発言したりすることに慣れています。手を挙げることに“恥ずかしい”という観念がありませんから、分かりきっていることでも躊躇なく質問します。こうした姿勢は、国内生にも波及していますし、英語以外の授業科目の活性化にもつながっているようです。

青木 国際学級の生徒は「Language Arts」を通して主体的に学ぶ姿勢が身についており、探究学習にしろ、修学旅行にしろ、積極的に参加しようとします。こうした姿が、他の生徒にも影響して、校内全体の雰囲気や進学にも良い影響を与えているように感じます。

次年度から国際学級を2クラスに増やすそうですね。

ブルネリ 22年続けてきて、弊害も見えてきました。昨年から国際学級でも理系を選択できるようになりましたが、海外大学、国内大学、文系、理系と多彩な進路ニーズに答えるには、それぞれ必要に応じた科目を開設する必要があり、そのためには一定規模の人数が欠かせず、2クラスに拡大することにしました。募集人員が増えるので出願しやすくなりますし、友だちが限られるのではないかという保護者の心配にも応えられるのではないかと思います。

国際学級がケンブリッジ国際認定校となりました。

青木 日本の女子校としては初めてだそうです。授業の方向性やめざすゴールなどが国際スタンダードとして認定されたわけですから、これから細部をしっかり詰めていきたいと思います。とくに海外大学をめざす生徒には、ケンブリッジの資格は大きなアドバンテージになると思います。

ブルネリ 高校生になった時点で、海外大学入学資格となるAS&Aレベルを選択できるように整備します。また、認定校として授業全体をケンブリッジの基準に合わせて見直していきますから、全員が世界標準の力を身につけることにつながると思います。

安田教育研究所・安田理先生の
女子伝統校
ここ魅力

2026年度からケンブリッジ国際教育プログラムを導入。一条校の女子校としては初めてだ。ケンブリッジ国際Aレベルは大学入学資格のグローバルスタンダードで、取得することで世界の大学に進学するパスポートを手に入れたことになる。また国際学級を2クラスにする。帰国生を増やすと同時に理系大学進学にも対応できるようにする。東京屈指の伝統校は今、生徒の将来に向けて大胆に舵を切っている。

安田教育研究所
代表 安田 理 氏

東京女学館中学校・高等学校 お問い合わせ先

※本記事は『日経ビジネス 教育特集号 AUTUMN.2025〈東京ストーリー〉(日経BP社)』に掲載されたものです。

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