※本記事は『日経ビジネス 教育特集号 AUTUMN.2025〈東京ストーリー〉(日経BP社)』に掲載されたものです。
校長 田中 尚子 先生
建学の精神「明朗謙虚」「勤勉向上」の下、生徒一人ひとりの自己実現を支える進学校として知られる昭和学院秀英中学校・高等学校。グローバル化や生成AIの発展など、従来の価値観や科学技術が急速に変化する社会にあっても、生徒たちが伸びやかに飛躍できるよう、昨年度から「骨太な進学校」というスローガンを掲げ、さまざまな教育改革を行っている。その具体的な内容について、校長の田中尚子先生に聞いた。
田中 本校が目標としているのは、単なる進学校ではなく、時代をリードする人材を育てる場所でありたいということです。設立以来、本校では、生徒の自己実現を叶えるために、「自律した自己」の獲得を基盤とした独自の教育活動を展開してきました。しかし、昨今の急激な国際化やAIの発展を受けて、次世代に必要な学力と教養をあらためて見直すべく、昨年度から「グローバル教育」「理系教育」「秀英アカデミア(探究活動)」を教育の三本柱に定めました。同時に「骨太な進学校」を学校のスローガンとし、変化に柔軟に対応できる生徒を育てたいと考えています。
田中 神田外語大学との高大連携による共同企画をいくつか展開しています。たとえば、中3以上を対象としたTOEFLやSAT対策中心の海外大学進学支援プログラム、マレーシア・スウィンバーン工科大学サラワク校短期研修、カリフォルニア州立大学イーストベイ校短期研修、さらに大学の外国人講師の授業を年間を通して受講するAcademic Reading&Writing講座などです。
海外大学進学を後押しするという意味で、昨年はニューヨーク州立大学オスウィーゴ校をはじめとする3大学との間で指定校推薦の協定を結びました。今後も協定校を増やし、海外大学をめざす生徒たちの希望に応えていきたいと考えています。
中学3年の海外語学研修の様子。アメリカ・カナダの3都市からコースを選び、英語力を磨きながら、その土地ならではのアクティビティも楽しめる
田中 今年度から、高2の理系クラスを対象に、週2時間の「理数探究授業」を導入しました。これは、物理・化学・生物・数学を中心に、生徒みずからが課題を見つけ、校内の成果発表をゴールに実験や考察を重ねていくというものです。たとえば、「バネを使って縦波と横波の速さを比較する」「ミジンコの心拍数に関する調査」など、自由な発想でテーマを設定しています。教科書よりも深い内容を学べるとあって生徒から好評を得ています。
また、医学部・薬学部・看護学部などの医療分野を志望する生徒に向けた「チームメディカル」も人気の高いプログラムです。医療従事者による講演や、大学ごとの傾向を踏まえた面接対策など、「なぜ医療の道を志すのか」を根本から見つめる指導を行っています。
雄飛祭(文化祭)での秀英課題探究プロジェクトの成果発表。飽くなき探究心を持つ仲間同士だからこそ得られる学びがある
田中 はい。たとえば、7月に立川高校で開催された「高校生向け産業探訪シリーズ」(一般社団法人 学びのイノベーション・プラットフォーム主催)にオンライン参加し、メタラジー(冶金学・鉄鋼プロセス工学)について見識を深めるほか、12月は本校で開催する予定です。これは大学・企業と連携した取り組みです。生徒に司会・進行を任せて、貴重な経験を積んでほしいと考えています。
田中 これからのAI時代に必要なのは、「問いを立てる力」です。こちらが求める答えをAIに出してもらうには、投げかける「問い」の質が非常に重要になるからです。
本校では、この「問いを立てる力」を探究活動の主題に据えています。そこで、①外部講師による出前講座、②校外コンテストへの挑戦、③秀英課題探究プロジェクトからなる三つの探究的アプローチを「秀英アカデミア」と命名し、実践内容のさらなる充実を図っています。
たとえば、①外部講師による出前講座では、生成AIセミナーや遺伝子講座など、年18回の講座を開講しました(2024年度実績)。中学生には難解なテーマも含まれますが、開かれた学びの場にしたいという思いから、特に制限を設けず、どの学年も自由に受講できるようにしています。
次に、②校外コンテストの挑戦では、たとえば文部科学省の留学制度を利用してフィリピンで学んだ生徒が、「教育の貧困をなくしたい」という思いから、帰国後にNGOを立ち上げました。
探究生物講座「ツチクジラの骨から考える」での一場面。実際に骨に触れ、観察することで、より多くの問いや気づきが生徒の中から生まれる
その活動を「FESコンテスト」に応募したところ、千葉県地区大会千葉県知事賞を受賞し、全国大会への出場資格を獲得。全国大会では優秀賞を受賞しました。このように、探究活動が、生徒の専門性を高めるきっかけになればうれしく思います。
田中 はい。生徒は探究の趣旨をまとめた企画書を校長に提出し、プレゼンテーションをしてもらいます。興味深い研究だと認められるものには、10万円を上限として段階的に費用補助を行っています。昨年度、認定を受けたのは、「江戸藩邸の屋敷神について」という研究です。北は秋田、南は福岡まで足を運び、歴史的資料を求めて奔走する生徒の姿に心を打たれました。わたしのなかでの評価基準は、「調べ学習」を超えた「探究活動」になっている否かということ。「おもしろい」「もっと知りたい」という気持ちを原動力に、多層的に考えを巡らせている研究には、学校としても前向きに応援したいと考えています。
田中 生徒たちに願っているのは、秀英アカデミアを通して、主体的に行動する楽しさを知ってほしいということ。そして、さらには英語によるプレゼンテーションにも慣れ、国際的な発信力を身につけてほしいということです。
理系教育:化学のCOD測定。実験を通して、社会課題に立ち向かう知と想像力を育てます
グローバル教育、理系教育、探究活動の三つを今後さらに発展させることで、その融合を促し、多様性を理解し、未来を柔軟に切り拓いていく時代の先導者を育てていきたいと考えています。
昭和学院秀英中学校・高等学校 お問い合わせ先
TEL.043-272-2481
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